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眠りに就いていた土がようやく活動を始め、葡萄の枝にまだ葉の緑も目立たないこの時期、ワインシャトーの人の出入りがとりわけ激しくなる。

ボルドー地区のシャトー歳時記におけるこの季節、経営者にとってはとても重要な時期だ。前年度の秋に収穫した葡萄が一応ワインに仕上がり、いよいよアサンブラージュを行う時期を迎えるのだ。

アサンブラージュ、すなわち配合。数品種の葡萄をブレンドするボルドーワインにおける、アサンブラージュはとてもとても重要な要素だ。
単に、ソーヴィニオンを80%にフラン10%、メルロ10%、これでよし!では済まされない。ちょっとした斜面の傾き、土壌の違いが味に影響する葡萄畑は、細かく細かく細分化されているのが普通だ。同じカヴェルネでも、クリマ(細分化された区画)が違えば特徴が微妙に異なってくる。こうなるともう、アサンブラージュは複雑怪奇。カヴェルネのクリマのAから10%、Cから15%、メルロが植えてあるうちEから5%、Fから11%、、、、、。葡萄の品種は3種ほどでも、トータルで数十にも分かれるクリマ(区画)から、どれをどのくらいの配合でブレンドするか。そのシャトーの味を決定するアサンブラージュ(ブレンド)は、経営側とって、非常に困難でデリケートな仕事なのです。
シャトーのオーナーやメートル・ドゥ・シエ(酒倉の責任者)それにミシェル・ロランなど権威ある醸造家が一堂に会し、経験と知識、戦略を元にアサンブラージュを行う。

そして、この大仕事が終わった後、ほっとする間もなくシャトーを訪れるのが、新酒の買付け人達だ。

アサンブラージュも終わり、ようやく完成したその年のワインは次に、その価値を評価される。
これからいよいよ、瓶の中で長い眠りに就くはずのワインは、まだ生まれて間もないこの時期に、その金銭的価値を判断されるのだ。各国から集まる輸入業者が、飲むべき時期からは程遠いこの時点で、ワインを吟味し、利益に繋がる将来性を判断し、赤ん坊のワインを買ってゆく。

ワインはビジネスだ
相続税の問題などで、ファミリー経営が難しくなったボルドーのシャトーは、次々と大企業の管理下に置かれてゆく。
ワインは投資の対象だ。オークションの状況を見るまでもなく、町の酒屋を覗いただけで、ワインの値上がりの速さはすぐに目がつく。
生まれた時には50フランでも、10年後に500フランになるワインを、どうして企業がほおっておかれよう。
こうして値が吊り上げられたワインは、手に入りづらくなり、貴重なものになってゆく。

「高いものはいい」。一般的には正当な理論だ。もちろんワインにも当てはまるケースは多い。タイユヴァン・ロビュションで飲む25000円のコンテス・ドゥ・ラランド85年は心踊る美味しさだ。でもこれは、25000円するから美味しいのではない。コンテスのシャトーが心を込めて作り上げたワインを、輸入業者が丁寧に日本に運び、レストランのカーヴでのきちんとした管理下の元、上手くデキャンタージュをして食べる料理に合わせたから美味しいのだ。

高価だから美味しい、のではない。そのお酒に携わった全ての人の努力によって、ワインは美味しくなる。値段はビジネスが決めたものだ。
心に残るようなワインに巡り合えた時、えてしてそれは高価なワインを飲んだ時が多いかもしれないが、値段にではなく、そのワインが自分の口に運ばれるまでに過ごした時に思いを馳せたい。

金銭的価値のある商品ではなく、自然と人間の愛情が生み出した希有な奇跡。そういう思いを込めて、ワインと交歓したい。

 

価格に反映する植物のサイクル

非常によい年、それには太陽の恵みがたくさんなければなりません。日照が多ければ多いほど、ワインがよくなると言われています。4月から10月末までの気温の積算合計が3,218度C、3,462度C、3,616度Cとそれぞれの違いは、ぶどうの熟成度に影響します。ぶどうの樹は水を必要とします。降雨量が多い場合388mm,平均310mm、良い年は266mmです。雨が多く、日照量が少ない年は良い年にはなりません。逆に日照量が多く、雨が少なかった年は、ひじょうによい年になります。その雨がいつ降るか、降って欲しい時に降らないと全く効果がありません。雨が少なくても、その雨が収穫時だったり、花がつくときに降った場合には偉大な年にはなりません。

一般的な良い年とは、日照量が普通の年で、雨も普通の量だったとしても収穫時に降らなかった年で、定期的に少しだけ降った年を言います。ですから、ぶどうの花がつく時と収穫時に雨が降ったか降らなかったかを知っていなければなりません。それによって新酒の価格も変わってしまいます。価格に関して必要なことは、一番に品質ですが、どれだけの量のワインが生産されたかによっても価格は変わります。もう一つ重要なのは植物のサイクルです。

植物のサイクルを知っておくと、プリムール、すなわち新酒購入、あるいは樽熟成中の購入の際に非常に役に立ちます。一年を通してみます。11月から3月までは冬の休暇期間です。ここで植物の休みをとるには、冬は寒くなくてはいけない。ぶどうの樹が充分に休息して休めば休むほど、結果は良くなります。一番心配なのは霜で、ぶどうの根の部分を腐らせるかどうかが問題であり、たとえば、1956,1957年にありました。特にポムロールは大きな被害を受けました。

マイナス10度Cからマイナス30度Cになると厳しくなります。一番気をつけなくてはならないのは、2月ぐらいまでそれほど寒くなくて、ぶどうの樹の根から樹液が土の表面に向かって出てきた時、霜が降りて冷えてしまうと腐ってしまうことがあります。樹液が上ってきて急に冷やされると、膨張して樹を壊して死んでしまいます。3月になると芽吹きを迎えますが、その年によって少し早くなったり、遅くなったりします。あまり早くても困ります。そこには、霜の問題が出てきます。芽に霜が付くと死んでしまいます。もう一度芽が出ますが、遅れてしまいます。

3月末、4月にかけて霜が降りると芽が死ぬので、生産量の問題が生じます。最初の芽が霜で枯れても、次の芽が出ますが2週間ほど遅れます。それが9月になった時に、ぶどうの熟し具合が大きく違ってきます。

開花期は6月20日、6月15日から25日の間です。天候がよく暖かければ、6月の10日に花が咲くこともあります。天候が悪く雨が降ったりすると、6月25日から7月1日ごろと遅くなる場合があります。ここで早く進むか遅くなるかの差が出てきます。

花は4,5日ですべて咲きます。うまく開花が進まない年もあり、たとえばブルゴーニュの1996年ですが、花が徐々に咲いていきましたが、全体が咲ききるのに2週間ほどかかりました。それによって、一つの畑の中で9月の収穫期に、非常に熟れたぶどうと育っていない実が両方付いていることが生じます。この時期天候が悪く、寒く雨が降った場合などは結実不良となり実がならず、収穫は50%になるとわかります。結実したとしても非常に実が小さく、育たないことがあります。

そのような年があり、その上2,3年前にも収穫が少なかったような場合、ここの時点でこの年が良い悪いにかかわらず価格が上がってしまいます。さらに2,3年前の少なかったワインも上がってしまいます。だから6月20日から7月15日の間にそのことを見極めて買えば、価格的な面ではよく、高くなってからかわなくてすみます。

花が咲いた時点でだいたい収穫がいつか見当がつき、ぶどうがしっかり熟れるまでほぼ100日間かかります。8月20日から25日は色づき期といって、ぶどうの実が最高の大きさにまで育ちます。ここで色が変わり、白ぶどうも黄金色がかり、赤ぶどうは皮が白から赤付いてきます。ここでぶどうの実が熟す段階に進んでいきます。

それはだいたい40日間と見ています。この間に糖度が上がり、酒石酸が低くなります。リンゴ酸も少なくなります。ただこの辺で雨が降ると、芽吹きも結実もうまくいったとしても、すべてが台無しになってしまいます。この9月は太陽が必要で、最も重要な時です。雨が降って欲しくないのは、結実とこの収穫の時です。ただ自然は人間がコントロールできるものではありません。

この植物サイクルで、年がどのようなものであったかを買う前にきちんと見極めて、情報を得ておけば、ほぼ将来性のあるワインができたかどうかの見当がつきます。収穫高はヴィンテージによって違いますので、高かった年の2,3年後にはリーズナブルな価格のワインが市場に出ることになります。われわれソムリエ、購買の責任者、インポーターの方たちもこのような自然のサイクルをきちんと見極めて買えば、価格が10〜20%違ってくると思います。

ワインと人とのかかわりは価格にも反映する。また、各国内のワインに対する思い入れも重要な条件となる。また、国々の景況も大きく作用する。それは、フランス「フラン」、ドイツ「マルク」、「ドル」そして『円』という通貨の変動も微妙に関わるし、ここでは触れてはないが『質の維持』に関わる輸送や流通経路も身近な要素です.

価格について・1998/WANDSから

フランスワイン価格状況

March 1998

  ボルドー、ブルゴーニュ

グランヴァン市況

'90年代前半のワイン相場は、'80年代後半の値上がりの反動と、やや恵まれないヴィンテージが続いたことが重なって低迷していたが、'95年産以降再び値上がり傾向にある。とりわけ、'96年産ボルドープリムールが高騰した後、ボルドーの高級ワインだけでな<、ブルゴーニュの高級ワインも急激に値上がりしている。今後の市場はどうなり価格はどう変化するのか、ブルゴーニュ、ボルドーの関係者に聞いた。       (パリ 松浦)

BOURGOGNE 

ルイ・トレビュッシェ氏(ピュリニーのネコシアン、ブルゴーニュワイン委員会会副会長)

◆ブルコーニュワイン、特に高級赤ワインが値上がりしているようですが、ブルゴーニュワイン市場の現状を少しお話していただけませんか.

 アペラシオンによって値上がりの状況はかなり違います。例えば、シャブリやプイィ・フュイッセは比較的妥当な値上がりで、昨年並ないしは高くても20%の値上がりです。一方、コート・ドールの村名付きAOCとプルミエクリュは30%〜50%値上がりしています。これはかなりの大きな値上がりです。しかし既に1996年産はほとんど子約済みで完売です。今1995年産、1996年産を探しても市場に残っているのはわずかです。大変強い需要があり、私のところでは'96年産の赤の大部分と白の全てが予約済みで、既に1997年産の白もプリムールの注文が入っています。

 

◆こうした強い需要の背景は何でしようか。

 1997年にドル、ポンドに対してフランスフランが値下がりしたことが大きいと思います。例えば、'96年末に1ドル=5フランだったものが'97年には1ドル=6.10フランに値上がりしましたし、同時期にポンドに対しても8フランから10フランに下がりました。また、円やアジアの通貨に対してもフランは同じように値下がりしました。これが高級ワインの需要増に結びついていると思います。フランスやヨーロッパでは日常消費ワインが売れているのに対して英国、米国、アジアには高級品が出ています。

 しかし、最近の通貨危機でアジア諸国の通貨が急激に弱くなっています。日本はそれほど心配はないと思いますが、そのほかの国は今後影響が出てくるでしょう。

 今一番重要なことは、フランス・フランがヨーロッパ統一通貨のユーロに組み込まれる5月時点でどんな相場に決められるかということです。もしフラン相場がユーロに対して強くなりすぎないように政治的に誘導されて、フランが競争力を保つならば、'97年の輸出向け価格は下がるでしょう。そして、外国の市場の買い手はあまり苦労せずに買えると思います。

 逆になれば、我々は輸出に苦戦することになるでしょう。

 ここ1〜2年、フランス国内ではブルゴーニュの高級ワインを買うのが極めて大変でしたが、為替相場の関係で外国の買い手はフランス国内の買い手より有利でした。1988年、'89年、'90年にフランス国内のレストランから、ブルゴーニュの生産家とネゴシアンは高級ワインを全て外国に販売してしまったと非難の声が上がりましたが、1995年産、'96年産、'97年産についても同じ様な状況になりつつあります。

 

'96年産と'97年産の質をどう評価していますか。

 '97年産の9月の収穫時期に赤はよく熟していましたが、白の熟し方は十分ではなく心配しました。しかし、1か月以上に亘って素晴らしい天気が続き、赤を先に収穫している間に白も完璧に熟しました。結果として、'97年産は大変バランスの良い白ワインが出来ました。

 '96年産はどちらかというと英国人好みのスタイルです。それほど厚みはありませんが活力があります。英国人が言うところのミネラルなワインです。一方、'97年産は厚みがあり、丸みが感じられ、アメリカ人好みのワインです。

 '97年産の白は分析値を見ても、糖度、酸度ともに完璧で、醸造上も問題がありませんでした。

 一方、赤ワインは果実味はありましたが大変熟していて1947年産のようでした。非常に豊かでアルコール度が高く、同時に揮発酸も含まれていました。成功した'97年産の赤は1947年産のように素晴らしいものでしたが、醜造は必ずしも簡単ではありませんでした。

 

◆日本では赤ワインが売れに売れていて、どのように赤ワインを調達するのか頭を痛めています。ブルゴーニュの'97年産の販売見通しをお話下さい。

 現在、'96年産が少し残っていて買いが続いています。'97年産の販売はまだ先になりますが、もし確実に手に入れたいのであればプリムールで手当した方が良いでしょう。というのは、'96年産はやや生産量が多めでしたが、'97年産の生産量は平年より少な目だったからです。

 

AOCフルゴニュのジエネリックも入手がき⊃<なりそうですか。  AOCレジョナルの方は、村名付きAOCに比べればそれほど問題はないと思います。しかし、私のところではAOCレジョナルも間も無くなくなります。

 

◆赤ワインが不足しているのは日本だけの現象でしようか.

 日本だけでなく、世界的に赤ワインの需要が増えています。例えば、米国は'91年産〜'94年産まで数年間、白ワインしか輸入していませんでしたが、'95年産から再び赤ワインを買い始めました。ブルゴーニュではプリムールの販売にはあまりなれていませんが、'97年産はプリムール売りが行われると思います。

 

◆カーヴ出し値、特に輸出価格の今後の見通しをお話していだけますか。

 '97年産は数か月後に市場に出ますが、'96年産に比べると確実に値上がりするでしょう。しかし、値上がり幅は限られたものになるのではないでしょうか。'96年産の価格はフランが強く、ドルが弱い時に決められたものです。現在の様なドル高、フラン安が続けば、例えカーヴ出し値が上がっても、輸入価格自体の値上がり幅は緩やかなものになるでしょう。しかし、フランス国内の買い手にとってはかなりの値上がり幅になると思います。20%くらいの値上がりは避けられないと思います。

 価格は経済環境だけでなく冷害や雹害など気候の変動要因もあり、価格の行方は誰にも分かりませんが、私としては次のミレジームの価格がもうこれ以上に上がらないことを願っています。

 

◆ボルドーの'97年産プリムールの販売は4月以降始まりますが、今年は昨年の高騰の反動が出るのではないかと言のわれています。

 ボルドーでは'97年産を我々より早やく収穫しました。収穫時期の気候条件は我々より良くなかったと思います。ですからボルドーのプリムール価格は'96年産より大幅に値上がりすることはないのではないかという印象を待っています。

 ボルドーの'96年産は高騰しましたが、我々ブルゴーニュの'96年産は穏当な価格に収まっています。ブルゴーニュの赤ワインが手に入りにくくなったのは、多くの流通業者が、'96年産ポルドーの価格に恐れをなして、妥当な価格のブルゴーニュワインを買おうとしたからです。我々はボルドーの様に、前年産に比べて倍にするような事はしませんが、'97年産ブルゴーニュの多少の値上がりは避けられません。

 

July/August 1998 

さらに値上がりしたプルミエグランクリュ

あまりの高値に「疑問」の声も

1997年産ボルドー・プリムールは昨年に比べさらに値上がりした。特に、プルミエグランクリュは1本当たり500フランとなり、果たして質に見合う価格かどうか疑問視する声も出ている2級以下の上げ幅はシャトーによりまちまちで、中にはサンテミリオンのシャト・フィジヤックのように値下げしたところもある。現地の生産者、ワイン専門店、レストラン関係者の声を叩いた。(パリ 松浦)

 

 ボルドー・プリムールの販売は収穫の翌年の春に市場関係者を対象にした試飲会を開き、その後、業界の反応を見ながら各シ々トーがネゴシアンに販売価格を伝え、注文をとるしきたりになっている。たいてい、4月から始まり5月末にはほぼ終わるが、最近は徐々に時期が後ろにずれる傾向にある。例えば昨年は、全体の相場に大きな影響を与えるプルミエ・グランクリュクラッセのトップをきって4月7日にシャトー・オーブリオンが95年産に比べて30%高い300フランの価格を発表した。このため他のシャトーもほぼこれに追随するだろうと見られていたが、市場の流れを伺っていた有カシャトーが価格の発表を控え、本格化したのは5月の後半になってからだった。そして価格は前年の50%〜100%のアップという、かつてなかった異常な値上がりとなった。

 特に2級のレオヴィル・ラスカーズか前年比124%アップの1本当たり380フランと、第1級を上回る価格を発表したため、それに対抗するような形で第1級シャトーか、第2回目の出し値を500フランに値上げした。中には第3回目の販売で600〜800フランを提示するなど、これまでにない混乱した動きになった。

 「昨年の場合、5月の半ば以前に価格を発表したシャトーと後半に発表したシャトーでは売り上げベースで教百万フランの差が出てしまい、臍をかんだ経営者も少なくなかったと言われています。だから、今年のプリムール市場ではどのシャトーがどんな価格を発表するか見極めてから対応しようという動きが一層強まりました。こうした相互の牽制が価格の発表時期をいっそう遅らす原因になりました」。ボルドーのネゴシアンは今年の異常な状況をこう説明する。

 今年、シャトーマルゴーがプルミエ・グランクリュクラッセの先頭を切って昨年の第一回売りより67%アップの500フランを発表したのはやっと6月の2日になってからだ。昨年のオーブリオンの発表時期と比べると2か月もずれ込んでいる。

 「一級シャトーは、今年もまたレオヴィルラスカーズに1級の出し値を上回る価格を提示されてはプルミエ・グランクリュクラッセの沽券に関わるという意識が強かったと思います。そのためにレオヴィルラスカーズの価格発表を待ってからと構えたのですが、結局待ちきれずに先に発表する事になったようです。その時考えたのは、レオヴィルラスカーズが追いつけない価格です。これが、昨年に比べて67%も高い500フランという価格になったのではないでしょうか」。ボルドーの有力シャトーの責任者はこう語っている。

 つまり、昨年、スーパー2級クラスが一気に1級の価格水準に近づこうとした動きは、業界全体にあまり良い印象を与えず、多少ギクシャクした動きがあった。そして1級シャトーとしてはイメージを守るために500フランの価格水準もやむを得なかった、という事情が背景にあるようだ。

 日本では業界内の横並び指向が強く、どの業界も各レベルで横の連絡が密で価格は「談合」に近いが、フランスでは個人主義が強く、ボルドーのシャトー、ネゴシアンの場合も、先行のシャトーの発表価格を参考にする事はあっても、発売価格などの情報を事前に交換して調整する事は意外に少ない。

 2級以下のシャトーでは、注目のレオヴィルラスカーズが1級の発表後に450フランを発表した。これは昨年比18%アップ。また、モンローズは昨年より10フランアップの230フラン。ピションコンテス、デュクリュ・ボカイユも250フランで共に昨年に比べて5フラン(2%アップ)の値上げにとどめている。これに対してコス・デストゥルネルが280フランと昨年より30フラン(22%)、またピション・バロン、ランシュバージュも21%アップの200フランとやや強気の価格だ。これは昨年、他の2級シャトーに比べやや値上げ幅が少なかったため、これを取り戻そうというねらいがあったようだ。また、レオヴィル・バルトン、プレウレ・リシーヌ、フィジャック、フルールド・ゲイのように昨年据え置きないし昨年を下回る価格を提示したところもあるなど、値上げ幅はかなりまちまちになった。

 3級以下のシャトーはラグランジュをかなり意識していたようで、ラグランジュが前年比14%アップの120フランで発表するとこれに追随したところが多かった。クル・ブルジョワではシャススプリーン(78フラン)、グロリア(88フラン)、フェロン・セギュール(75フラン)、プジョー(78フラン)などが代表的なところだ。

 どのネゴシアンも、来年以降も継続的に手に入れたいシャトーについては、今後の割り当てを確保するために、価格はどうであれ一定量は引き取らざるを得ないという事情がある。従って、1級シャトーについては割高感はあっても、今年も完売の状況で、シャトーマルゴーのように第1回売りの数日後に第1回売りよりさらに20%高い600フランで注文を受け付けたところもあり、相変わらずの売り手市場だ。

 しかし「500フランに対しては、あまりにも上げすぎと不満もある。特に質とのバランスではお客さんを説得しにくい。結局シャトーからワインを引き取ったネゴシアンに在庫として寝かされ、ネゴシアン泣かせの年になるのではないか。ネゴシアンは世界の市場を知っており、それほど安易な状況ではなくなってきている事に気づいているはずだ」と訝る声も聞こえる。

 一方、2級以下のシャトーでは、価格と質のバランスについてかなり厳しい見方が出ており、昨年のように必ずしも即座に完売とばかりはいかないシャトーもあるようだ。特に、米国市場は'96年産の販売が末端市場でややもたついており、'97年産の価格に警戒感を抱く向きが出できているという。また、アジア市場は日本が昨年末からの赤ワイン不足もあってかなり買いが入っていると言われるが、その他の市場は静かなようだ。さらに、一時高級ワイン市場に興味を持ったフランスのスーパー、ハイパーも、急激な値上がりで割高になったグランクリュのワインからワンランク下のクリュ・ブルジョワ級のワインにターゲットを変えていると言われる。そして、これまで高級ワインの買い手だったレストラン関係者は、消費者の購買力が回復していない中で、最近のミレジームの高価なグランクリュをワインリストに掲載する事は不可能だとして、プリムール買いから遠ざかっている。こうしたことから、ネゴシアンもプリムールの市況に関して例年以上に口が堅く、ネゴシアン以降の販売がどこまで確保されているのか不透明なところがある.

 質の評価に関しては、既に本誌3月号で概説しているが、'97年産は全体としては’'96年産に比べ明らかに劣るだろう。例えば、4月半ばに各シャトーを訪れラフイット、ムートン、ラトゥール、オ・ブリオン、マルゴーの'96年産と'97年産と比べて試飲したが、'96年産の濃縮度は明らかに'97年産を上回っていた。'96年産は長期熟成の偉大なワインと言えるのに対して、'97年産はフルーティで軽く心地よく飲める、早熟タイプのワインと言ってよいだろう。

 ただし、4月から5月にかけて現地で約200のシャトーを試飲した印象では造り手により質はかなり開きがある。これは、'96年産の開花時期の天候が暑く、安定していて、受精が短期間に均一に進み、葡萄の熟し具合が均質だったのに対して、'97年産は開花時期の天候に恵まれず、開花、色付き、熟成が不均質に進んだため、収穫葡萄の質がまちまちだったことが大きな原因だ。寛容なミレジームは誰でも良いワインが造れるが、'97年のような一筋縄ではいかない年は、生産家の力量がワインの質にストレートに現れる。熟した葡萄だけを極めて厳格に選別した生産者だけが良いワインを造った。

 「質ではなく、ラベルだけで買っている一部の投機家がいるために、市場が加熱している。今年のワインの質から考えると論理的根拠がない.よく品質を見極めた上で買うように消費者には助言を与えている」(消費者向けにプリムール販売を手がけるアラン・セジェル氏)。

 ネゴシアン、末端販売業者のマージンを加えた販売価格は、概してシャトー出し値の25〜30%増しだ。                ■

 

BORDOAUX

 鈴田健ニ氏(シヤトー・ラグランジュ副社長)

'97年産ボルドー・プリムールの見通しは。

 今のところ何とも言いえない、良く分からないというのが正直なところです。特にアジア市場が、最近の経済危機の影響を受けてどうなるのかが良く分からないという点があります。人によってはアジアへのボルドーワインの輸山量は全体から見るとわずかで、アジアが買わなくても大数は変わらないという見方をする人もいます。ただ、一般的には昨年に比べて10〜15%くらい下がるのではないかと言われています。

 

'97年産の質についてはどう評価していますか。

 地元での一般的な評価は'94年よりは上だが、'95午、'96年よりは少し劣るという見方です。だから品質だけから言うと昨年並みの価格は付けられないだろうとう見方があります。ただ、'97年の品質はバラツキが多かったので、各シャトーともシャトーものの合うを非常に絞っています。'96年に比べて15〜30%ほど減らしているようです。セレクションを厳しくし品質を維持しようという方向に行っているので、シャトー側としては外部の経済環境さえ許せば、昨年並みの価格を維持したいということだと思います。

 

◆先白、英国のワインエキスパートのスティーヴン・スパリヤー氏とパリで食事をする機会があったのですが、彼は「アジア市場の現状から考えて'97年産プリムールは去年並の価格を維持するのは難しいだろう、下げざるを得ないだろう」という意見でした。私自身も、昨年、あまりにも上げたのでその反動があるような気がします。

 昨年は後半に発表したシャトーの価格がかなり上がりました。特に、名声のあるシャトーが強気に値上げしたのが特徴です。結果として、今まで買っていた伝統的な消費国は十分な量が手当て出来なくて反感を抱いたように思います。ですから、常識的に考えて昨年の値段からさらに上げるということはないのではないかと思います。

 

◆ヴィンテージの性格からする'96年産より値上げする理由はないですね。

 しかし質だけで価格が決まるわけではないことも確かです'86年産は'85年産より質が良かったにも拘らず価格は20%位下げざるを得なかったし、逆に'84年産は'83年に比べて悪かったけれども値段は上がりました。

 地元の一般的な見方は今年は上がらないだろうと言うことですが、昨年も最初に発表したシャトーは10%台でしたが5月の中旬からワッと上げたので最後の最後まで分からないですね。

1本10円のワインがあったとして、リーファー・コンテナ(750ケース)で輸入し、通関、シール、税金、リーファー倉庫で保管するとすると、4ヶ月経過すると1本当たり400円以上になります。生産地での価格と日本の市場価格にあまりに差があることは残念ですが、、私たちの身のまわりで見かけるワインの価格をみていると3本1000円などという物を見つけても、原価はいくらなの?という疑問より、心配することは他にあると考えたほうがイイですね。。

でも、今のこの時点では、こういう拾い物もある事は知っていてよい。つまり、ワインブームの去った今、気まぐれな市場の読みを外した良心的な輸入業者が放出したものがそんな値段で売られていたらお買い得。

   

BRUTUS 1998/10/15 から 『鑑定家 ロバート・M・パーカー Jr.』

この人の一言に世界中のワイン関係者が一喜一憂する。ワインを分かりやすく100点満点で点数評価する米国人ロバート・M・パーカー。世界のワイン市場を動かすほどのこの男は、いったい何者で、誰の見方なのだろう。

今やロバート・パーカーほど、世界のワインマーケットに巨大な影響力をもつ人間はいないだろう。彼が発行する「ザ・ワイン・アドヴォケイト」紙は、100点満点の点数評価で世界中のワインをレイティングする。

ワインは分からないことが多い。膨大なワインの山を前にすると、どれを買ったらいいか途方にくれる。そんな時に、数字で明快にワインの評価をしてくれるのだから、これほど魅力的で分かりやすいガイドはない。

分かりやすいのは業者も同じで、パーカーが高い点をつけるとワインマーケットは直線的に反応する。極端な例ではボルドーの「ル・パン」というワイン。82年ものは日本円で2000円ほどの市場価格だったが、パーカーが高い評価を下すや値上がりし始め、今では1本30万円という法外な値段で取り引きされるようになってしまった。

高い評価を受けたワインがある一方で、パーカーによってそれまでの名声を失うワインも出てくる。確かめたわけではないが、醸造所によっては、パーカーに評価してもらいたいばかりに、ワインの醸造法を変更するところまで出てきたという話も耳にする。「ワイン・アドヴォケイト」のえいきょうりょくは、生産の現場まで及んでいるのである。

一方、パーカーのやり方に疑問を投げかける人がないわけではない。いわく、すべてのワインを同じ土俵に上げて比べるのは乱暴だ。90点のブルゴーニュ・ワインと90点のコート・デュ・ローヌのワインは評価では同列だが、中身は全く違う。その差は、産地の個性であり、ワインのニュアンスにあるのだが、この側面が抜け落ちているという、もっともな指摘である。(この指摘は勘違いである)

ロバート・M・パーカー Jr.は、ワシントンDCから車で2時間ほどのメリーランド州ボルチモア郊外に自宅兼オフィスを構えていた。『ワイン・アドヴォケイト』はテイスティングから編集までをパーカーが一人でこなす個人紙だ。発刊は72年。最初は無料で知り合いに配った。

「発刊の同期? 当時はワインの本にしても産地がどうしたというものばかりで、消費者のために書かれた本はなかった。私はウォーターゲート時代のロウ・スクールの産物で、つまり、ラルフ・ネーダーに大きな影響を受けている。バカ高い屑ワインが多すぎると憤った私は消費者運動の立場から『ワイン・アドヴォケイト(運動家)』を出すことにした」。

当時、パーカーは企業つきの弁護士で、この同人誌のようなもので将来食べることになるとは夢にも思っていなかった。600人から始まった『ワイン・アドヴォケイト』の読者は現在3万2000人ほどになった。84年に定期購読者が1万人に達したところで弁護士稼業から脚を洗った。パーカーの採点方式は、満点から減点していくのではなく、ロウ・スクールで身に付けたという、50点からスタートしてワインの長所を最大100点満点まで加算していく手法だ。この肯定的なやり方は、減点方式に比べて許容量が大きいという利点がある。「わたしは基本的には享楽的な人間だ。中にはワインに点をつけるなんて、この男はワインに愛情がないのかと批判する人もいる。だが、中身を読んでもらえれば、評や記事にわたしのワインへの情熱が感じ取れるはずだ。わたしはワインを飲むし、ワインを信じている」

創刊号から採用されたスコアリングシステムとともに、『ワイン・アドヴォケイト』で特筆すべきは、紙面に一切、広告を入れないという点だ。紐付きになれば、自由にモノが言えなくなる。アドヴォケイトではなくなってしまう。

自らをワイン鑑評家と言い、すべてのワインに100点満点中50点を自動的に与え、、色に5点、香りに20点、熟成の可能性に10点という持ち点を決めて味わい分けていく。つまり、鑑定、鑑評するわけである。

いまでは「ワインの消費市場を自分が引っ張ってきたといえるだけの自負がある」という彼は同時に「20年前に、ガールフレンド(現奥方)を訪ねてフランスに行くまでは、ワインについて語ったり飲んだりすることがなかった」とも言う。

 

 

 

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